風早物部饒速日王国

物部氏之事

第一章

[第1章]風早國造神主講演録・遺稿集
未来を担う風早の若者たちへ - 君達には物部氏の血が流れているんだ! - 正しい秋祭りの継承を願って

6 日本三大荒神輿の神事

井上宮司

夕刻、氏子地域を渡御した神輿が境内に戻ってきます。(御宮入り)

次の「宮入り」です。日本の三大荒神輿というのがあります。1番が、まあ順番はどうか分かりませんが、愛媛県では北条です。2番、宮城県には帆手(ほて)の祭りというのがあります。それからもう一つ、3番目に兵庫県に灘の喧嘩祭りというのがあります。これが日本の三大荒神輿に数えられています。

これに数えられている以上は、私達は神主としてこの祭りはそれこそ、次から次へと継いでいかなければいけない義務があるし、責任もあろうし、またそれを皆さんにお伝えをして、そういうお祭りを子々孫々に至るまで伝えていかなければいけない、こういうふうに思っているわけであります。

お宮入りですが、このように御旅所でお祀りをすましまして、方々を渡御し、一番最後に帰ってくるわけです。帰ってまいりますと、ご承知のように、馬場のところにはだんじりが横にずらりと並び、通れない。だんじりが道いっぱいに並んで練っていますし、そこへお神輿は帰ります。神輿は帰りますが、「通してくれ」「馬鹿なこと言うな」と通さないわけです。それで前に行ったり後ろに行ったり、ジャンジャンドンドンと鉦や太鼓でやるわけです。そしてしばらく練っておりますと、真ん中のだんじりがすっとのく(風早方言:移動するの意)わけです。「やった!」というんで、ダーッと行くわけですね。そして若者の肩に担がれて一番上までお神輿を担ぎ上げる。そして頭の上に高くかざして、ダンと落とすわけですね。

4体の神輿を破壊する神事。ご神体争奪戦は全国唯一だ。

そういうお祭りはもうないわけです、全国にもうないんです、もうここぐらい。こういうことは私は、少々お金はかかるかもわかりませんが、続けていかなくてはならないのではないかというふうに思うわけであります。

わざわざ毎年毎年新しく作ってまいりまして、新しく作ったものを壊すのは勿体ないじゃないかと言われる方もいらっしゃいますが、これが一つの神事なんであります。なぜ壊すのか。壊すためにはやはり、一つには理由があるわけです。人によりますと、先ほど申しましたように、氏神様は武神であって、非常に荒々しいことがお好きなんだ、だからお神輿を壊して、荒く扱うことによって神様がお喜びになるんだと言われるようですが、そのこともあるのかも分かりませんが、私はもっと深い意味があるんじゃないかというふうに思うんです。

「動」の祭りで一連の神事を締めくくる。饒速日尊の御阿礼(「みあれ」ご誕生・万物の再生)の瞬間である。

なぜ壊すのでしょうか。それは、いっぺんお祭りに使ったものは二度と再び使うな、ということです。いっぺん使ったものはそれきりにしてしまう。これが大きい。そして今年作ったものは壊してしまう。また次に新しいものを作り、その新しいものに神様を遷していく。そういうふうに、壊してしまって神様のご神徳を、神威を盛り立てていく。これが最もいい理由の一つです。

それからもう一つは、2番目には、お祭りは祓いから始まって祓いに終わると申しました。お祭りが始まりますと、清浄潔斎(しょうじょうけっさい)をして私たちも3日ぐらい前から別の火を焚きまして(別火(べっか))、ご飯などを炊いて、家の者とは別のものを食べるのですが、潔斎をする。このお神輿を壊すことによって、潔斎を解くことを解斎(げさい)という。解斎というのは、清浄を潔斎にしてきた、それからここで俗界にいるわけです。神輿をかくあいだは清浄であります。お神輿を壊して、そして神様と一緒に楽しむ。神様と人が一緒に楽しんで、「やったー」となるわけです。もうこれでおしまいだとなると、清浄の世界はなくなってしまい、俗界に入っていく。

神輿の破壊行為は物部神道の奥義を秘めた神事である。野蛮行為とは似て非なるものである。

お祭りの前には必ず、皆さんが担ぐ前には浴衣を着ますね。浴衣は何か。私たちはこういう白い着物を着ておりますが、皆さん方は白い着物は着ません。浴衣は地が白で何か模様がある。ただそれだけです。色物は使っておりません。なぜか。それは清浄でなくてはならないから、白い物を使うんです。そしてまた、これもひとつの祓いの部類に入るのですが、祭り前には庭の松などをちゃんと剪定するでしょ。10軒のうち8軒は庭の松や木は全部剪定して、きれいにします。きれいにして、すっきり、清々しい気持ちでお祭りを迎える。これが清らかな心。これが潔斎、これが祓いです。その潔斎からひとつ置いて俗界に入っていく。このひとつの関連したものです。

こういうひとつの大きな理由があるから、初めて壊すんです。そして、今年壊してまた新しくする。新しい神輿を作って、清々しいものにして、瑞々しいお神輿を作って、その瑞々しい神輿に神様に遷っていただいて、またその神様を町村の隅々まで担いでいこうというのが、これが渡御であり、お神輿を壊すことなんであります。