風早物部饒速日王国

物部氏之事

第一章

[第1章]風早國造神主講演録・遺稿集
未来を担う風早の若者たちへ - 君達には物部氏の血が流れているんだ! - 正しい秋祭りの継承を願って

8 だんじりは神輿より古い

井上宮司

皆さん方はだんじりには神様はいらっしゃらないとお考えでしょうか?昔はここに御霊を移したんです。だからお神輿の原型はだんじりなんです。そしてこれを担いでやった。これを「曳きだんじり」というんです。辻町かどこかに「ほていさん」とか何とかあるんじゃないですか。これは「置きだんじり」といって、置いておくだけなんです。そして、ここに提灯をつける。皆さんが小学校5、6年生ぐらいのときには恐らくこの上に上がられて、言われながら、この提灯の中にロウソクをつけた経験があると思います。男の子だけで、女の子は絶対に上がらせません。なぜか。神様をお祀りした神聖なところだからです。ここへ全部提灯の中にロウソクをつけましたでしょ。これは火を捧げる。今はそういうことせんでしょ。そんな手間のかかることはしません。電気ですから明るいし世話がない(風早方言:苦労しないの意)。ロウソクだと面倒だから。でも昔の人はあえてやってきたわけです。それは男の子がやった。穢れを知らぬ男の子、小学校5、6年生ぐらいの。伊勢神宮では心御柱(しんのみはしら)だとか、あるいは一番大事な、一番最初のお祭りは誰がするか。神聖な童男と童女(酒造童女(さかつこ))がするんです。

心御柱というのは大きい柱があるんです、これは掘っ立て柱です。それを初めに祓いをし、穿(うが)(はじ)めをするんです。誰がするのか。これは神主は絶対やりません。それと同じで、穢れを知らぬ男の子がこの上に上がって神様に火を差し上げる。おひかりを差し上げる。これがだんじりです。ですから、なんでもないのにお光を上げるのではない。

司会(塾長)

そうしましたら、だんじりはどれぐらいの歴史が。

井上宮司

私も知りませんが、だんじりが原型です。奈良県あたりに行きますとすごいです。日本最古のだんじりの原型を留め、また当地方独特の依り代(ヨリシロ)としてだんじりの上に笹をつけて、日の丸を全部つけて。それは誰がやったかというと、あれは「こより」(キズキを糸状に縒ったもの)をやりますよね。お前なんぼ(風早方言:本数)つくれと。100本作れとか200本作れとか、恐らくやられたと思うんです。今頃はこよりも既製品で旗も印刷でやるらしいですが、昔は旗の製作はなすびを切っといてやったでしょ。それはお年寄りなんかするもんじゃない。童男、穢れを知らない者がするんです。それはなぜか。4本柱を2本しか立てないことはない。笹は全部4本柱に必ずつけたでしょ。そしてそこへ、全部につけたでしょ。それはなぜか。それは神の依り代であります。「私たちのだんじりはここにあります。どうか神様、どうぞここに来てください」と、神様の依り代です。神様をお迎えした。神様をお迎えする依り代です。今でも門松を立てるでしょ、お正月になったら。これも「これが私の家でございます。どうぞこちらへお越し下さい」。松に神様(歳神=饒速日尊)をお呼びする。そして、皆の家ではお飾りをつくるでしょ。お飾りは今はスーパーで100円、200円ぐらいで買えますが、昔は自分で作ってみかんなどをやりました。こういうことをやる人は今は少なくなりました。それもやはり、神様を丁重に丁重に扱い、そして皆が清めあって、清浄に清浄を重ねていって、そしてお祀りをしたわけです。

風早のだんじり 平成5年当時は、まだ浴衣が主流だった

皆さんが浴衣を着てお神輿を担ぐといいましたけれども、やはり清浄に清浄に、穢れがないように穢れがないようにと努めてきたわけです。お祭りが近くなってまいりますと、必ず電話がかかってくる。どういう電話がかかってくるかといいますと、「宮司さん、うちの嫁のだれだれがいついつ死んだんじゃが、お神輿をかいてもよかろうか?」と、こういう電話です。必ずかかってきます。嘘をついてはいかんですから、お父さんやお母さんが亡くなったときはこんなの、親族ではこんなの、といろいろあります。「今年は遠慮したほうがいいでしょう」とか「そりゃ大丈夫です」とかいうお話はします。必ずといっていいくらい電話がかかってきます。そういう方はあまり、お神輿やだんじりといったものには触りません。なぜ触らんのでしょう?

それは穢れを自分の身に持っているから、触らない。触ると、えてして怪我をしますから。私はそんなことがあってはいかんから、「それはよした方がいいでしょう」というふうに、いかんときにはお話をして、来年も再来年もあることですから、「今年は遠慮して、来年なら来年にまた担いだほうがいいんじゃないですか」というお話はします。

人間というのは非常に祓いが好きだと言いましたが、そういうふうに清浄潔斎、穢れがないようにという気持ちを非常に日本人は重んじています。

司会(塾長)

なにかこの際に宮司さんにお聞きしたいことはありますか。